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砂場の足跡
残業が終わったのは午前1時を回っていた。会社の飲み会をすっぽかした代償として、上司が無理難題の仕事を押し付けてきたのだ。タイムカードを押し、オフィスビルを出ると、冷たい風が頬を撫でた。11月も中旬に差し掛かり、東京の夜は冬の気配を帯び始めて... -
亡き者からの手紙
最初の手紙が届いたのは、母の三回忌の日だった。 信じられないことだった。母の筆跡は間違いようがなく、私の名前「美咲」の「き」の字が少し傾いているのは、いつもの癖だった。宛名書きの角度、封筒の折り目の付け方、そして微かに漂うラベンダーの香り... -
消せないポップアップ
深夜の静寂を破るのは、キーボードを叩く音だけだった。高橋修平は会社の企画書の最終調整に没頭していた。締め切りまであと数時間。いつものように徹夜になりそうだ。 「あともう少しだけ...」 そう呟いた瞬間、画面の右下に小さなウィンドウが表示された... -
終バスの案内人
残業で疲れ果てた俺は、駅に向かう終バスの停留所で待っていた。時計は午後11時40分を指している。あと5分で最終便が来るはずだ。冬の夜風が頬を撫で、周囲には人影もまばらだった。 「これを逃したら歩くしかないか...」 溜息をつきながらスマホを見てい... -
カルテに書かれた「×」
夜勤明けの疲れた瞳で、私は新たに渡されたカルテを眺めていた。研修医として赴任して三ヶ月、ようやく病院の空気に慣れてきたところだった。 「佐藤君、今日から担当してもらう患者さんだ」 循環器科の水野部長が差し出したのは、一般的なものとは少し異... -
最終電車の乗客
私が心底恐怖を感じたのは、あの深夜の電車の中だった。 仕事の飲み会が長引き、気づけば終電間際。何とか駅のホームに滑り込んだ私は、滑り込むように最終電車に乗り込んだ。車内は予想通り閑散としていた。サラリーマンが二、三人、酔った様子で座席に座... -
深夜のセルフレジ
疲れ切った表情で、僕は深夜のコンビニに滑り込んだ。デジタル時計が「23:47」を指している。終電はとうに逃し、タクシー代を節約するために駅から自宅まで歩くことにした。その途中、少し腹が減ったので立ち寄ったのだ。 店内には僕以外に客はいない。レ... -
休憩室の椅子
私が勤める「三條システム開発」のオフィスビルは、築30年を超える古い建物だった。会社自体は10年前にこのフロアに引っ越してきたが、前の会社が残していった家具をそのまま使っている部分も多い。特に3階奥にある小さな休憩室には、妙に場違いな一脚の椅... -
放課後の鏡
紗季が最初に「放課後の鏡」の噂を聞いたのは、梅雨の終わりごろだった。うだるような暑さの中、放課後の教室に残っていた友人たちが小声でひそひそと語り合っていた。 「知ってる?三階の女子トイレの鏡のこと」と友人の美咲が言った。「放課後の六時十七... -
歩道橋の上の女
午後10時。私は毎日の帰宅ルートを歩いていた。この街れっきとした住宅街なのに、どこか不気味な雰囲気が漂う。特に、この古びた歩道橋は、夜になると余計に陰鬱な雰囲気を醸し出す。 最初に彼女に気づいたのは、二週間前のことだった。歩道橋の中央に、真...