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放課後の窓際
私が赴任した中学校は、郊外の小さな町にあった。築40年を超える校舎は随所に古さを感じさせるが、生徒たちは明るく元気だ。新任教師として3年2組の担任を任された私は、初めての教壇に立つ緊張と期待で胸が一杯だった。 着任から一週間が経ち、学校の雰囲... -
湯気の向こう側
引っ越して三日目の夜、私は新居のお風呂に初めて浸かった。仕事の都合で単身赴任になり、築30年のアパートを借りたのだ。風呂場は古いながらも、大家さんが去年リフォームしたらしく、浴槽は新しい。 湯気の立ち上る風呂場の照明は少し暗めで、タイル張り... -
五本目の電信柱
私が引っ越してきたのは、都会から車で三時間ほど離れた小さな町だった。仕事はリモートワークになり、思い切って自然の多い場所で暮らしてみたかったのだ。 家は町の外れ、田んぼと山に囲まれた一軒家。最寄りのコンビニまで車で十分ほどかかる。夜になる... -
終わりなき道程
「もう三時間も同じ道を走っている」と佐藤は呟いた。助手席の妻・美香は眠ったままだ。後部座席では六歳の娘・陽菜が携帯ゲームに夢中になっている。 佐藤家の夏休み旅行は、順調なはずだった。朝早く東京を出発し、山梨の温泉宿に向かう予定だった。ナビ... -
闇の先へ
携帯の画面に「圏外」の文字が点滅している。もう三十分ほど前から電波が途切れたままだ。いくら山道とはいえ、こんなに長く圏外になるのはおかしい。 「まだ着かないの?」助手席の彼女が不安そうに聞いてきた。 「もうすぐだよ。地図では、このトンネル... -
廊下の幽影
古い二階建ての一軒家に越してきて三ヶ月が経った。私は仕事の都合で地方から東京に引っ越してきたのだが、家賃の安さだけを理由にこの家を選んだことを、後悔し始めていた。 最初は気にならなかった。少し古い家具の軋む音、風が吹くと揺れる窓ガラスの音... -
夜道の足音
深夜の帰り道、私は人気のない道路を歩いていた。終電を逃してしまい、タクシーを使うのももったいなくて、自宅まで歩くことにしたのだ。とはいえ、街灯はところどころしかなく、静まり返った道は妙に心細い。 スマホで音楽でも聴こうかとポケットに手を突... -
押し入れの中の気配
この部屋に引っ越してきたのは、ちょうど一週間前のことだった。古いけれど広めの1LDKで、家賃も手頃だった。唯一気になるのは、寝室にある大きな押し入れ。ふすまが古びていて、どこか不気味だった。 「まあ、使わなければいいか」 そう思い、私は押し入... -
リビングの違和感
夜中の2時、私はリビングのソファでうたた寝をしていた。仕事の疲れが溜まり、ベッドまで行く気力もなかったのだ。テレビは消えているが、スマホの画面がうっすらと明かりを放っている。ふと目を覚ました瞬間、違和感があった。 リビングの空気が妙に重い...
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