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見てはいけない検索履歴

検索履歴

私がスマホの検索履歴に違和感を覚えたのは、ちょうど一ヶ月前の夜のことだった。

仕事から帰宅し、いつものようにベッドに寝転がって何気なくスマホを開いた。Twitterをスクロールし、YouTubeで適当な動画を見て、そして何かを調べようとブラウザを開いた時だ。

検索バーをタップすると、最近の検索履歴が表示される。その中に見慣れない単語があった。

「多摩湖畔 失踪事件」

私は眉をひそめた。多摩湖なんて場所に行ったこともないし、失踪事件に興味を持って調べた覚えもない。誰かが私のスマホを勝手に使ったのだろうか。だが、私のスマホは常に肌身離さず持っているし、ロックもかけている。

「変だな」と思いながらも、疲れていたので深く考えずにその履歴を消して寝た。

次の日の夜、また同じように検索バーをタップした時、今度は別の不可解な検索履歴が目に入った。

「新宿区西部 地下道 行方不明」

不安感が胸をよぎった。確実に自分で検索した覚えはない。試しに検索してみると、三年前に新宿区西部の古い地下道で若い女性が行方不明になった事件が出てきた。事件は未解決で、女性は今も見つかっていないという。

気味が悪くなり、すぐにその履歴も消した。念のため、スマホのセキュリティ設定を確認したが、不審なログインや遠隔操作の形跡はなかった。パスワードも変更して就寝した。

三日目、今度は「亀戸 廃ビル 首吊り」という検索履歴があった。

もはや偶然ではない。誰かが確実に私のスマホに侵入している。それも、毎日違う怖い事件を検索している。警戒心から、その言葉で検索してみると、半年前に亀戸の解体予定の古いビルで男性が首を吊って自殺したというニュースが出てきた。

スマホショップに行って調べてもらったが、「外部からのアクセスは確認できません」と言われてしまった。知り合いのITに詳しい友人にも見てもらったが、「ハッキングの形跡はない」との返事だった。

それでも検索履歴は増え続けた。 「府中市 井戸 女児 遺体」 「世田谷 マンション 監視カメラ 人影」 「多摩川河川敷 切断 指」

すべて実際に起きた事件や事故に関するものだった。それも、どれも警察が解決できずにいるような不気味な案件ばかり。私はスマホを初期化したが、翌日には新たな検索履歴が現れた。

「江東区 古井戸 失踪多発地点」

恐怖と好奇心が入り混じり、私はその場所について調べた。江東区の一角に、かつて何人もの人が失踪したとされる古い井戸があるという噂話が出てきた。具体的な住所まで書かれていた。

その夜、眠れずにいると、スマホに通知が入った。見ると、Googleマップが勝手に起動し、江東区のその住所へのルートが表示されていた。誰も操作していないのに。

次の日も、その次の日も、検索履歴は増え続けた。そして毎晩、Googleマップが勝手に起動するようになった。行き先はすべて、検索履歴に現れた事件現場だった。

いよいよ耐えられなくなり、スマホを買い替えることにした。新しいスマホには最低限必要なアプリだけをインストールし、古いスマホは引き出しにしまい込んだ。

その夜は久しぶりに安心して眠りについた。

翌朝、目を覚ますと、枕元に古いスマホがあった。引き出しから勝手に出てきたかのように。画面を見ると、新たな検索履歴があった。

「あなたの家 地下 遺体」

震える手でその言葉を検索すると、私の住所が表示された。そして、「この場所で過去に複数の遺体が発見されている」という情報が出てきた。家を借りる前の古い事件らしい。

恐怖で体が動かなくなった。その時、スマホが震え、新たな検索履歴が追加された。

「あなたの真下 今 動いている」

床から物音がした。カツン、カツンという足音のような。それが近づいてくる。スマホの画面には、リアルタイムで新しい検索ワードが追加されていく。

「真後ろ」 「振り向かないで」 「見つかった」

恐る恐る振り向くと、そこには…

何もなかった。

ほっとして再びスマホを見ると、最後の検索履歴が表示されていた。

「あなたの中に既にいる」

その瞬間、鏡に映った自分の顔が不自然にゆがみ、見知らぬ笑みを浮かべていた。右手が勝手に動き、スマホで最後の検索をしていた。

「次の獲物」

私の意識は徐々に後ろへ押しやられ、自分の体が他者によって操られていくのを感じた。そして理解した。これは私のスマホへの侵入ではなかった。私自身への侵入だったのだ。

今この文章を書いているのは、もう「私」ではない。

あなたのスマホにも、見に覚えのない検索履歴はありませんか?それは単なる誤操作ではないかもしれない。あなたの中に入り込もうとする何かの痕跡かもしれない。

チェックしてみてください、あなたの検索履歴を。 そして、もし見知らぬ言葉を見つけたなら… それは既に始まっているということ。

次はあなたの番です。