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下からの気配

ベッド

新居に引っ越して一週間が経った。一人暮らしを始めたマンションは築15年と少し古いが、家賃が手頃で間取りも気に入っていた。特に寝室は広く、前の住人が置いていったダブルサイズのベッドは、私の身体にぴったりと馴染んだ。

最初の数日は新しい環境の緊張感から、あまり眠れなかった。しかし徐々に慣れてきて、昨夜はようやくぐっすりと眠ることができた。

そう思っていた。朝起きると、なぜか体中が痛かった。まるで一晩中、固い床の上で寝ていたかのように。不思議に思いながらも、新しいベッドだからかもしれないと考え、気にしないことにした。

二日目の夜。ベッドに横になり、本を読んでいると、ふと違和感を覚えた。どこからか、かすかな匂いがする。カビのような、湿った土のような匂い。部屋を見回しても原因は見当たらない。窓を開けて空気を入れ替え、そのまま眠りについた。

朝、また体中が痛む。そして枕元に、何かの黒い髪の毛が一本落ちていた。長い黒髪。私の髪は肩より上の短いボブだ。

「前の住人の髪が残っていたのかな」と思い、掃除機をかけた。

三日目の夜。ベッドに入ると、マットレスがどこか硬く感じた。昨日よりも強くなった土の匂い。そして、眠りにつく直前、ベッドの下から何かが動いた気がした。ネズミか何かだろうか。確認しようとベッドから身を乗り出したが、何も見えない。暗闇の中で、ただベッドの下の空間が口を開けているだけだった。

朝、今度は腕に小さな青あざがあった。爪で掻いたのかもしれないが、形が指の形に似ている。誰かに掴まれたような。

四日目、不安になって管理人に前の住人について尋ねた。 「ああ、山下さんですね。急に引っ越されましたよ。理由は聞いてません」 「何か問題があったんですか?」 「さあ…ただ、引っ越し業者が来なかったのは覚えてます。荷物をほとんど置いていったみたいで」

その晩、眠れなかった。ベッドの下から聞こえるかすかな音。爪を引っ掻くような、息をするような。時計は午前2時を指していた。恐る恐るベッドの下を覗き込んだが、暗くて何も見えない。懐中電灯を取り出し、ベッドの下に光を当てた。

何もない。ただ床があるだけ。安心して横になった時、足に何かが触れた。冷たく湿った感触。飛び起きると、足元のシーツが僅かに動いていた。

パニックになって電気をつけ、ベッドカバーを全て剥がした。マットレスには大きなシミがあった。濃い茶色で、ところどころ黒ずんでいる。前にはなかったはずだ。

恐る恐るマットレスを持ち上げると、その下から強烈な土の匂いが襲ってきた。マットレスの裏側は完全に黒ずみ、何かの液体で濡れていた。

震える手で管理人に電話した。「マットレスの下に何かあります。確認してください」

管理人と警察が到着したのは30分後だった。マットレスを完全に持ち上げると、ベッドフレームの中に隠された空間が現れた。そして中に、黒い長い髪の女性の遺体が横たわっていた。腐敗が始まっていたが、顔はまだ識別できた。

警察の調査で、彼女は前の住人・山下さんの婚約者だったことが判明した。山下は彼女を殺害した後、遺体をベッドフレームの中に隠し、姿を消したという。

今、私は友人宅のソファで眠っている。しかし、毎晩同じ夢を見る。暗いベッドの上で横になると、下から誰かが私の体を押し上げる。そして耳元でささやく声が聞こえる。

「次はあなたの番よ」