怖い話– category –
投稿まとめ
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笑う患者
私が総合病院の内科病棟で働き始めて三か月が経った頃のことだった。新人看護師としての慣れない業務に追われる日々の中で、一つだけ気になることがあった。 それは、夜勤の時間帯に聞こえる、奇妙な笑い声だった。 最初に気付いたのは、十月の肌寒い夜の... -
100円均一の”ひとつだけ”商品
雨に濡れた傘を振りながら、田中は最寄りの100円ショップに足を向けた。仕事帰りの金曜日、明日は休みだというのに気分は晴れなかった。同僚との些細な口論、上司からの理不尽な叱責、そして恋人からの別れ話。全てが重なって、彼の心は疲れ切っていた。 ... -
誰にも渡さない
新しいアパートに引っ越してから一週間が経った。築四十年の古い木造二階建てだが、家賃の安さと駅からの近さに惹かれて決めた。前の住人が置いていった家具も使えるものばかりで、特に寝室にあった古いタンスは重厚感があって気に入っていた。 その日、掃... -
公衆電話
八月の午後二時。アスファルトから立ち上る陽炎が、視界を歪ませていた。営業先から駅へ向かう途中、私は汗でびっしょりになったシャツを気にしながら、古びた商店街の一角を歩いていた。 この界隈は再開発から取り残されたような場所で、シャッターを下ろ... -
その本、誰が返したの?
九月の第一週、夏休み明けの図書室は静寂に包まれていた。司書の田中先生は、返却ボックスに入っている本を一冊ずつ取り出し、バーコードを読み取りながら返却処理を進めていた。 「あら?」 手に取った一冊の文庫本を見て、田中先生は首をかしげた。表紙... -
射的屋の人形
夏祭りの喧騒が夜空に響く中、俺は射的屋の前で銃を構えていた。隣で友人の拓也が「もう十発も外してるじゃん」と笑っているが、俺の集中力は途切れない。狙いを定めているのは、店の奥の方に置かれた古びた人形だった。 他の景品とは明らかに異質なその人... -
焼け焦げたラケット
私が中央高校のテニス部に入部したのは、四月の桜が散り始めた頃だった。部室は古い体育館の裏手にあり、その奥には更に古い倉庫が併設されている。先輩たちは皆優しく、新入部員の私にも丁寧に指導してくれた。 「倉庫の奥には古い道具がたくさんあるから... -
明日も雨でしょう。
毎晩午後十一時三十分、私は必ずテレビの天気予報を見る習慣があった。明日の服装を決めるためと、洗濯物を干すかどうかの判断材料にするためだ。一人暮らしを始めて三年、この習慣だけは欠かしたことがない。 気象予報士の田中美咲さんは、いつも穏やかな... -
花火の灯りに消えた少女
夏の夜の湿った空気が肌にまとわりついて、ミオは不快感を覚えていた。毎年恒例の地元の花火大会。高校二年生になった今年も、幼馴染のユキと一緒に河川敷に来ている。 「今年は去年より人が多いね」 ユキが浴衣の襟元を直しながら言った。確かに、川沿い... -
深夜2時のチャットボット
美咲は夜更かしが習慣になっていた。高校2年生の彼女にとって、深夜2時頃にスマホでAIチャットボットと会話するのが、一日の終わりの楽しみだった。「AI-kun」という名前の無料チャットボットアプリで、勉強の悩みから恋愛相談まで、なんでも聞いてくれる...