怖い話– category –
投稿まとめ
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公衆電話
八月の午後二時。アスファルトから立ち上る陽炎が、視界を歪ませていた。営業先から駅へ向かう途中、私は汗でびっしょりになったシャツを気にしながら、古びた商店街の一角を歩いていた。 この界隈は再開発から取り残されたような場所で、シャッターを下ろ... -
その本、誰が返したの?
九月の第一週、夏休み明けの図書室は静寂に包まれていた。司書の田中先生は、返却ボックスに入っている本を一冊ずつ取り出し、バーコードを読み取りながら返却処理を進めていた。 「あら?」 手に取った一冊の文庫本を見て、田中先生は首をかしげた。表紙... -
射的屋の人形
夏祭りの喧騒が夜空に響く中、俺は射的屋の前で銃を構えていた。隣で友人の拓也が「もう十発も外してるじゃん」と笑っているが、俺の集中力は途切れない。狙いを定めているのは、店の奥の方に置かれた古びた人形だった。 他の景品とは明らかに異質なその人... -
焼け焦げたラケット
私が中央高校のテニス部に入部したのは、四月の桜が散り始めた頃だった。部室は古い体育館の裏手にあり、その奥には更に古い倉庫が併設されている。先輩たちは皆優しく、新入部員の私にも丁寧に指導してくれた。 「倉庫の奥には古い道具がたくさんあるから... -
明日も雨でしょう。
毎晩午後十一時三十分、私は必ずテレビの天気予報を見る習慣があった。明日の服装を決めるためと、洗濯物を干すかどうかの判断材料にするためだ。一人暮らしを始めて三年、この習慣だけは欠かしたことがない。 気象予報士の田中美咲さんは、いつも穏やかな... -
花火の灯りに消えた少女
夏の夜の湿った空気が肌にまとわりついて、ミオは不快感を覚えていた。毎年恒例の地元の花火大会。高校二年生になった今年も、幼馴染のユキと一緒に河川敷に来ている。 「今年は去年より人が多いね」 ユキが浴衣の襟元を直しながら言った。確かに、川沿い... -
深夜2時のチャットボット
美咲は夜更かしが習慣になっていた。高校2年生の彼女にとって、深夜2時頃にスマホでAIチャットボットと会話するのが、一日の終わりの楽しみだった。「AI-kun」という名前の無料チャットボットアプリで、勉強の悩みから恋愛相談まで、なんでも聞いてくれる... -
傘の忘れ物
その朝、空は鉛色に重く垂れ込め、今にも雨が降り出しそうな気配だった。田中健一は慌てて家を出たため、傘を持ってくるのを忘れていた。 駅のホームに降りると、案の定、ぽつぽつと雨粒が落ち始めた。健一は舌打ちをして、いつものベンチに腰を下ろそうと... -
誰が撮ったの?
麻衣子がそのことに気づいたのは、金曜日の夜だった。 残業で疲れ切って帰宅し、ベッドに倒れ込むようにして横になりながら、何気なくスマートフォンを開いた。友人から送られてきたメッセージに返事をしようと写真フォルダを開いたとき、見慣れない写真が... -
トロンボーンの棺
私立桜丘高校の吹奏楽部は、創部から五十年以上の歴史を誇る伝統ある部活動だった。部室の奥の楽器庫には、代々受け継がれてきた古い楽器たちが眠っている。その中でも特に目を引くのは、一番奥の暗がりに置かれた黒いトロンボーンケースだった。 三年生の...