怖い話– category –
投稿まとめ
-
冷蔵庫のメモ
麻衣が会社から疲れ切って帰宅したのは、いつものように夜の十時を回っていた。IT企業の事務職として働く彼女にとって、残業は日常茶飯事だった。二十六歳になったばかりの麻衣は、両親の反対を押し切って一人暮らしを始めてから三年が経つ。築十五年のマ... -
駅の階段
「また、いるな」 田中拓海は毎朝六時十分発の電車に乗るため、新宿駅の南口改札を通り抜ける。運転士見習いとして働き始めてから半年、この時間帯はいつも決まった人々が行き交う。サラリーマン、学生、清掃員。みんな急ぎ足で階段を昇り降りしている。 ... -
消えたテントの仲間
夏休み最後の週末、私たち家族は奥多摩の湖畔キャンプ場で過ごしていた。父、母、私、そして小学校三年生の弟の大輝。都心の暑さから逃れるように選んだこの場所は、昼間でも涼しく、夜には肌寒いほどだった。 キャンプ場はそれほど大きくなく、湖に面した... -
窓の外に、誰かいる
午後11時32分。羽田発新千歳行きの最終便は、高度1万メートルの夜空を静かに滑っていた。 田中は窓際の席でぼんやりと外を眺めていた。出張の疲れが重く肩にのしかかり、機内の薄暗い照明が心地よく感じられる。隣の席は空いており、静寂に包まれた機内で... -
赤い絵の具
放課後の美術室に、かすかな夕日が差し込んでいた。廊下を行き交う生徒たちの声も遠ざかり、校舎全体が静寂に包まれ始める時間帯だった。 「もう少しで完成なんだけどな…」 三年生の山田咲は、イーゼルに立てかけたキャンバスを見つめながら、小さくため息... -
出てこない缶
深夜一時過ぎ、美咲は図書館から重い足取りで帰路についていた。明日の卒論発表を控え、準備に追われて終電を逃してしまったのだ。夜道を一人で歩くのは不安だったが、タクシー代をケチってしまった自分を恨みながら、普段より早足で歩いていた。 住宅街の... -
深夜のドアノック
私と拓也がアパートをシェアし始めてから、もう半年が経っていた。大学の近くにある築二十年のマンションで、家賃は安いが設備は古い。それでも二人で割れば負担は軽く、お互いの生活リズムも似ていたので、特に問題なく共同生活を送っていた。 その夜も、... -
包丁の音
夕方六時を過ぎると、我が家の台所からは決まって包丁の音が響く。母の手慣れた動きが奏でるトントントンという規則正しいリズムは、私にとって帰宅を告げる安らぎの音だった。 その日も同じだった。大学から帰宅した私は、玄関で靴を脱ぎながら台所の方向... -
変わるパスコード
深夜0時を過ぎた頃、私は布団の中でスマホをいじっていた。SNSをチェックしたり、動画を見たりする、いつものルーティンだ。眠気が襲ってきて、画面を消そうとした時だった。 「あれ?」 スマホが勝手にロック画面に戻っていた。別に珍しいことではない。... -
マネキンの目
俺の名前は田中翔太。都内の私立高校に通う17歳で、放課後は駅前の老舗百貨店「西川デパート」でアルバイトをしている。担当は4階のレディースアパレル売り場だ。 西川デパートは創業50年を超える老舗で、建物も古く、夜になると妙に静まり返る。俺の仕事...