怖い話– category –
投稿まとめ
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視線の先に
八月の終わり、夜の熱気が肌にまとわりつく。エアコンの効きが悪くなった部屋から逃れるように、私はベランダに出て涼を求めていた。 時刻は午後十一時を回っている。この時間になると、向かいの七階建てマンションも大半の部屋が暗くなり、静寂が辺りを包... -
黒板の落書き
桜ヶ丘高校二年三組の教室に、最初の落書きが現れたのは五月の連休明けだった。 朝一番に教室に入った委員長の田中美咲は、黒板の右端に小さく書かれた文字を見つけて首をかしげた。 『佐藤は母親の薬を盗んでいる』 「何これ?」 美咲は眉をひそめた。佐... -
覗き込む誰か
十一月の夕暮れ時、私は今日もいつものようにマンションの外階段を上がっていた。エレベーターが故障してから三週間。修理の見通しは立たず、十三階建ての九階にある我が家まで、毎日この薄暗い階段を使って帰らなければならない。 制服のスカートが冷たい... -
消えた毛布
田中雄介は一人暮らしを始めてまだ半年だった。都内の1Kアパート、築20年ほどの古い建物だったが、家賃が安く、駅からも近いため迷わず決めた。隣人とのトラブルもなく、静かで住みやすい環境だと満足していた。 その夜も、いつものように午後11時頃にベッ... -
カーナビの案内
田中は新車を購入したばかりだった。最新型のAI搭載カーナビが自慢で、音声認識機能も完璧、渋滞回避ルートも秒で計算してくれる優れものだ。営業の仕事で毎日運転する彼にとって、これほど頼もしい相棒はいなかった。 その日も、いつものように顧客回りを... -
血圧計の謎
深夜二時、聖心総合病院の四階内科病棟は静寂に包まれていた。新人看護師の田中美咲は、入職してまだ三ヶ月という緊張感を胸に、夜勤の巡回業務を行っていた。廊下の蛍光灯が一本置きに消され、薄暗い通路を歩く足音だけが響いている。 美咲は患者のカルテ... -
排水口の髪
田中美咲は、実家を出てから三年目のワンルームマンションで一人暮らしをしていた。築十五年の古いマンションだが、家賃が安く、職場からのアクセスも良い。唯一の不満は、お風呂の排水口がすぐに髪の毛で詰まってしまうことだった。 美咲は腰まで届く長い... -
鏡の中の伴奏者
秋の夕方、桜ヶ丘高校の音楽室に響く美しい合唱の音色。しかし、その調べの奥には、誰も気づかない不協和音が潜んでいた。 「はい、もう一度。今度はもっと気持ちを込めて」 音楽教師の田中先生が指揮棒を振り上げる。放課後の合唱部練習は、いつものよう... -
砂場の足跡
残業が終わったのは午前1時を回っていた。会社の飲み会をすっぽかした代償として、上司が無理難題の仕事を押し付けてきたのだ。タイムカードを押し、オフィスビルを出ると、冷たい風が頬を撫でた。11月も中旬に差し掛かり、東京の夜は冬の気配を帯び始めて... -
亡き者からの手紙
最初の手紙が届いたのは、母の三回忌の日だった。 信じられないことだった。母の筆跡は間違いようがなく、私の名前「美咲」の「き」の字が少し傾いているのは、いつもの癖だった。宛名書きの角度、封筒の折り目の付け方、そして微かに漂うラベンダーの香り...