怖い話– category –
投稿まとめ
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窓の外に、誰かいる
午後11時32分。羽田発新千歳行きの最終便は、高度1万メートルの夜空を静かに滑っていた。 田中は窓際の席でぼんやりと外を眺めていた。出張の疲れが重く肩にのしかかり、機内の薄暗い照明が心地よく感じられる。隣の席は空いており、静寂に包まれた機内で... -
赤い絵の具
放課後の美術室に、かすかな夕日が差し込んでいた。廊下を行き交う生徒たちの声も遠ざかり、校舎全体が静寂に包まれ始める時間帯だった。 「もう少しで完成なんだけどな…」 三年生の山田咲は、イーゼルに立てかけたキャンバスを見つめながら、小さくため息... -
出てこない缶
深夜一時過ぎ、美咲は図書館から重い足取りで帰路についていた。明日の卒論発表を控え、準備に追われて終電を逃してしまったのだ。夜道を一人で歩くのは不安だったが、タクシー代をケチってしまった自分を恨みながら、普段より早足で歩いていた。 住宅街の... -
深夜のドアノック
私と拓也がアパートをシェアし始めてから、もう半年が経っていた。大学の近くにある築二十年のマンションで、家賃は安いが設備は古い。それでも二人で割れば負担は軽く、お互いの生活リズムも似ていたので、特に問題なく共同生活を送っていた。 その夜も、... -
包丁の音
夕方六時を過ぎると、我が家の台所からは決まって包丁の音が響く。母の手慣れた動きが奏でるトントントンという規則正しいリズムは、私にとって帰宅を告げる安らぎの音だった。 その日も同じだった。大学から帰宅した私は、玄関で靴を脱ぎながら台所の方向... -
変わるパスコード
深夜0時を過ぎた頃、私は布団の中でスマホをいじっていた。SNSをチェックしたり、動画を見たりする、いつものルーティンだ。眠気が襲ってきて、画面を消そうとした時だった。 「あれ?」 スマホが勝手にロック画面に戻っていた。別に珍しいことではない。... -
マネキンの目
俺の名前は田中翔太。都内の私立高校に通う17歳で、放課後は駅前の老舗百貨店「西川デパート」でアルバイトをしている。担当は4階のレディースアパレル売り場だ。 西川デパートは創業50年を超える老舗で、建物も古く、夜になると妙に静まり返る。俺の仕事... -
視線の先に
八月の終わり、夜の熱気が肌にまとわりつく。エアコンの効きが悪くなった部屋から逃れるように、私はベランダに出て涼を求めていた。 時刻は午後十一時を回っている。この時間になると、向かいの七階建てマンションも大半の部屋が暗くなり、静寂が辺りを包... -
黒板の落書き
桜ヶ丘高校二年三組の教室に、最初の落書きが現れたのは五月の連休明けだった。 朝一番に教室に入った委員長の田中美咲は、黒板の右端に小さく書かれた文字を見つけて首をかしげた。 『佐藤は母親の薬を盗んでいる』 「何これ?」 美咲は眉をひそめた。佐... -
覗き込む誰か
十一月の夕暮れ時、私は今日もいつものようにマンションの外階段を上がっていた。エレベーターが故障してから三週間。修理の見通しは立たず、十三階建ての九階にある我が家まで、毎日この薄暗い階段を使って帰らなければならない。 制服のスカートが冷たい...