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リモコンの場所
テレビのリモコンがない。 会社から帰宅して、いつもの習慣通りにソファに腰を下ろし、テレビをつけようとした瞬間、違和感に気づいた。サイドテーブルにあるはずのリモコンがそこにないのだ。 「あれ?」 疲れた頭で考える。今朝、ニュースを見ながら朝食... -
見てはいけない検索履歴
私がスマホの検索履歴に違和感を覚えたのは、ちょうど一ヶ月前の夜のことだった。 仕事から帰宅し、いつものようにベッドに寝転がって何気なくスマホを開いた。Twitterをスクロールし、YouTubeで適当な動画を見て、そして何かを調べようとブラウザを開いた... -
月曜日の家族
引っ越しから一週間が経った。 新しい生活を始めるために選んだのは、駅から徒歩15分ほどの静かな住宅街にある古いアパートだった。築年数は経っているが、内装はリフォーム済み。なによりも家賃が安く、一人暮らしにはぴったりだった。 「佐藤さん、こち... -
お客さん、もう降りてますよ?
深夜の東京。雨が降り始めていた。 俺は12時間目の運転の最中だった。このご時世、タクシー業界も厳しい。ダブルシフトを引き受け、明け方まで走るのは珍しくない。今夜も例外じゃなかった。 「あと一本だけ拾って帰ろう」 時計は午前2時15分を指していた... -
退院したはずの人
私は都内の大きな総合病院で夜勤の看護師として働いて5年目になる。病院の夜は独特の静けさがある。昼間は忙しく動き回る医師や看護師たちも少なくなり、面会客もいなくなる。そんな静寂の中、時折聞こえる患者さんの咳や寝返りの音が、妙に鮮明に響く。 ... -
売店の女
残業続きの月曜日、終電間際に滑り込んだ地下鉄はガラガラだった。私、佐藤雄一は人の少ない最後尾の車両に座り、スマホを眺めながら十五分ほどの帰路に就いた。 疲れ切った頭で会社のトラブルを反芻していると、あっという間に降車駅に到着してしまった。... -
試供品のヘッドホン
電子機器の展示コーナーに立ち、私は何度目かの深呼吸をした。冷房の効いた空気が肺に入ると、緊張が少しだけ和らいだ。 「大丈夫ですか、鈴木さん?」 振り返ると、石田課長が心配そうな顔で私を見ていた。エスカレーターを降りてきた客がチラチラと私た... -
社長はもういない
退勤前にパソコンの電源を落とそうとした矢先、チャットアプリの通知音が鳴った。 「今日の企画書、もう一度見直してくれ。明日の取引先との打ち合わせに間に合うように」 差出人は、三ヶ月前に亡くなった森田社長だった。 私は画面を凝視し、自分の目を疑... -
薬品棚の奥
夏休み前の放課後、理科室の掃除当番だった僕は、窓から差し込む夕日に照らされた薬品棚の埃を拭いていた。理科教師の浅野先生は早めに帰ったらしく、教室には僕一人だけが残されていた。 「あと少しで終わりだ」 そう思いながら薬品棚の各段を丁寧に拭い... -
後ろを振り向いたら負け
雨上がりの山道は、足元が滑りやすく神経を使う。私たち四人は足を取られないよう慎重に下山していた。標高1800メートルの山頂からの帰り道、疲労と達成感が入り混じる心地よい疲れが体を包んでいた。 「もう少しで林道に出るはずだよな」と前を歩く友人の...