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鏡に映った自分
朝の光が窓から差し込み、部屋を優しく照らし始めた頃、私は目を覚ました。平日の静かな朝。いつもなら急いで準備をする時間だが、今日は珍しく休みをもらっていた。 伸びをしながらベッドから出て、洗面所へと向かう。まだ少し眠たい目をこすりながら鏡の... -
白いカーテンの向こう
放課後の掃除当番を終え、校内が静まり返り始めた頃、僕は保健室に立っていた。体育の授業で捻挫した足首の包帯を交換するためだ。ノックしても返事がないので、おそるおそるドアを開けると、誰もいなかった。 「先生、いませんか?」 応答はない。夕日が... -
隣の席
私が配属された部署の隣の席は、いつも空いていた。 入社して三ヶ月、総務部の片隅に与えられた私の机の隣には、誰も座っていなかった。パソコンはあるし、筆記用具も置かれているのに、人の気配はない。 「あそこは佐藤さんの席です」と課長は言った。「... -
下からの気配
新居に引っ越して一週間が経った。一人暮らしを始めたマンションは築15年と少し古いが、家賃が手頃で間取りも気に入っていた。特に寝室は広く、前の住人が置いていったダブルサイズのベッドは、私の身体にぴったりと馴染んだ。 最初の数日は新しい環境の緊... -
8番線のホーム
私が転勤で通うようになった大崎駅は、7番線までしかないはずだった。 初日、駅の構内図を見ながら確認した。1番線から7番線まで、すべて把握した。しかし、出勤から一週間が過ぎた金曜日の夜、残業で疲れて帰る途中、駅の案内表示が目に入った。「8番線 -... -
最終改札
新築の一人暮らしを始めた私にとって、最寄り駅は徒歩15分の「月影駅」だった。都心からは少し離れているが、静かな環境が気に入っていた。 ある日、残業で終電間際に駅に着いた。改札を通ろうとすると、駅員が声をかけてきた。 「お客さん、今日はもう最... -
フォロワー
新しいSNSアプリ「Echo」は瞬く間に人気を集めていた。他のSNSと違い、Echo上のアカウントは実名登録必須で、投稿した内容は24時間後に自動削除される。「本音を言える場所」という謳い文句が若者の心を掴んでいた。 私もその波に乗り、アカウントを作った... -
三階の個室
私が勤める中学校の三階にある女子トイレの最奥の個室は、なぜか誰も使わない。 赴任して一ヶ月が経った頃、同僚の佐藤先生から「あそこだけは使わないほうがいい」と忠告された。理由は聞いても「気にしないでください」と言うばかり。校舎は築40年と古い... -
影の主
毎日同じ時間に家を出る。毎日同じ歩道を通る。毎日同じように会社に向かう。そんな平凡な日常が、あの日から変わり始めた。 最初に気づいたのは、かすかな足音だった。カツン、カツン。自分の足音とわずかにずれて聞こえる。振り返ってみても、そこには誰... -
終電の客
夜11時45分、最後の電車が駅に滑り込んできた。疲れ果てた俺は、空いている席に座り込んだ。窓の外は真っ暗で、自分の顔が薄っすらと映っている。 車内には他に3人しかいなかった。向かいの席には年配のサラリーマン、車両の端には学生らしき若者、そして...